よもやま話


名前についての考察

 ○オカリナの名前について

 オカリナというか、オカリーナ というかについては趣味の違いでその示すものについては違いがないと思いますが、種類の名前となると話が大いに違ってきます。「ソプラノ」や「アルト」が何を示すのかについては現在メーカーごとにだいぶ食い違いがあり、私たちが楽譜「オカリナ四重奏のための春夏秋冬」や「地球は笑顔」を出版した時にも楽器名のことで購入された方や販売店での誤解がいくつかあったように聞いています。

 全てについて説明をすることは大変ですので、とりあえずよくある食い違いについてここで考察をしようと思います。

 

アルトCとバスC という名前について

 これらはよく聞く名前ですが、ポテトではこれらの名前は使いません。理由は以下です。

○フルートやサックス、クラリネット、リコーダーなどと違ってオカリナにはメーカーの違いを超えて共通の統一された名前がない。

○都合の悪いことにオカリナには上記の各管楽器よりも多くの(調の違う)種類が存在する。 共通の名前がないことに加えて、種類が多いのですから混乱の度合いが高いことは十分に予想されますね。

 

 オカリナが辿ってきた歴史のこともありますが、「音域が狭い」ということから「とりあえずはこれ一本」みたいな標準たりうる種類がないことも大きな原因かなと思います。例えば「フルート」はほぼ1種類、サックスはアルトとテナーの2種類、クラリネットも1種類、トランペットやトロンボーンも1種類、リコーダーはソプラノとアルトの2種類、などと主に使用する楽器が限られています。それらを軸に上下の種類の名前が決まりますので、混乱が起きにくいです。オカリナの場合は吹奏楽やオーケストラのような「指定席」がないことに加えて、オカリナ発祥の頃、製作時のピッチ管理が難しかったことも影響したと思いますが、様々な調子の楽器が生まれています。また、無伴奏で吹くときにはそれら調子の違いは、音色の「テイスト」の違いとして重宝されてきたことも考えられます。オカリナの種類には「正統な名前」というのは存在しないと思います。

 それならば実用的なしかも統一見解となる名前に落ち着いてくれたらよかったのですが、残念ながらそうはなりませんでした。そこで、私たちは自分たちの団内で誤解がないように統一の名前を定めて今もそれを使っています。参考にしたのは親戚関係で名前が整備されている「リコーダー」です。演奏法にも共通点が多くまた、ソプラノやアルトリコーダーについては体験した人も相当数いるのではと思われますので、音の高さの指標としても良いと思います。小学校で習うソプラノリコーダーと「同じ高さ」で全部塞いだら「ド」のオカリナは当然「ソプラノ」としました。それを軸に上下を決めています。

 

 さて、やっと「アルトCとバスC」の話題です。上記の「ソプラノ」は実は「アルトC」として数多く販売され使用されています。この記事の読者の中にも使っておられる方もたくさんおられるのではないかと思いますが、それは「ソプラノリコーダー」と同じ高さで、ということはピッコロと同じ高さであるということです。楽譜には本来「実際の音はオクターブ高い」ことを示す「8」がト音記号についていないといけないのですが(表内をご覧ください)慣習的に省かれることも多いです。それに気づかずにいると本当に「アルト」と思ってしまいがちです。

 ソプラノ、アルト、テナー、バスという音域の区分はご存知と思います。もしこの「アルト」を認めるとその下が順にテナー、バスということになるのですが、その時「バス」にはちょっと不都合が生じます。それはその「バス」はフルートと同じ音の高さの楽器で低い方の基準音はト音記号の低い「ド」です。確かにフルート系の楽器(オカリナも含むで良いと思います)は高次倍音が少ないので音色として「あたかもオクターブ低いかのように聞こえる」現象があるとは大昔から記述されていますが、だからと言って実際にオクターブ低いわけではありません。(流石に今はないと考えたいですが、昔は運指表の音部記号が間違っているメーカーもありました。)さすがにこの「バス」名には辛いものがありますね。

 

 加えて別の違和感もあります。それは多くの木管、金管楽器でソプラノやテナーが「C」の楽器でアルトは「F」の楽器に落ち着いたものが多いということです。(もちろん例外もあります)わざわざ逆らわなくても良いのではと思います。

 

とりあえず今流通している楽器名が一挙に変わるとは思えませんが、(それは明日からケチャップとマヨネーズの名前を交換します、みたいなものでしょうから)ご自分の楽器の音域について理解なさることを、そしてお願いしますが、ポテトのソプラノ・テナーは「C」でアルト・バスが「F」だということをご理解ください。

 

 

 ○楽器の名前一覧表

○ F 管オカリナの移調記譜について

(以下の記事に登場するソプラノやアルトなどの楽器名は「ポテト方式の名前」です。市販楽器の名前とは違うこともありますので、前記事をご覧になってからお読みいただくようにご注意ください。)

 

 F 管については現在は移調記譜が大半を占めているようですが、私たちは実音記譜で演奏しています。そして私たちの考えでは合奏するならそれ(実音記譜)以外ではあり得ないと考えています。以下にそれぞれの長所、短所を考えようと思います。

 

実音記譜(オクターブの移動は許容します)

○長所 楽譜に書かれた音と実際に出てくる音が一致する。

○短所 例えば楽譜上の「ド」を演奏するときに、C 管とF 管では運指が異なる。

 F 管用の運指を新たに覚えないといけない。

 

移調記譜はこれの逆転で

○短所 楽譜に書かれた音と実際に出てくる音が一致しない。

○長所 例えば楽譜上の「ド」を演奏するときに、C 管とF 管とも運指が同じ。

 F 管用の運指を新たに覚えることはない。(ここが最大のポイントか?)

 

もう少し移調記譜のことを説明します。

 「ド」を演奏するとき、ソプラノC では両手の10 指とも(小音孔以外)全部を塞ぎます。

同じ高さの音(当然「ド」ですが)をアルトF で演奏するときは左手を全部塞ぎ、右手は全部開放します。これはソプラノC では「ソ」を演奏するときの運指になります。なぜそうなるかといえば、アルトF の方がソプラノC に比べて楽器が大きく全体の音が低いからです。

 アルトF は始まりの音が「ファ」で(ファ=F、だからF 管ということなのですが)「ド」はファ・ソ・ラ・シ♭・ドで下から5番目の音になります。もしもこれがG 管ならG= ソですので、下から4つ目の音ということになります。

 ここで勘の良い方は思いつかれたかもしれませんが、そうですアルトF で「ド」を演奏するにはソプラノC で「ソ」を演奏するときの運指をすれば良いという考え方が生まれます。

例えば楽譜には「ドレミファソ」と書いておき、それをアルトF で演奏すれば実際には「ファソラシ♭ド」が出てくる。それが移調記譜です。なんと便利な魔法でしょう。!??

 ところが、困ったことがあります。それは

 

1)アルトF のためにはそれ用の楽譜(移調譜)をあらかじめ用意しないといけない。

2)例えば2重奏で上がソプラノC、下がアルトF の時は、上下パートで楽譜の調子が異なるだけではなく見た目にも不自然な楽譜となります。以下は譜例です。

 

 

 おなじみの「蝶々」ですが、パッと見は上下同じように見えるかもしれません。でもよく見ると下の楽譜はアルトパートだけにシャープがついています。そうです、こちらが移調記譜です。譜例1を見ると「S,A で3度のハーモニーなんだなあ、3小節目の頭は同じ音になっているなあ」という発見ができると思います。これが譜例の2では(移調記譜に精通した方を除いては)そのような発見は難しいと思います。直感的(見たままの印象)には4小節目

などは「A の方が3度高いハモり」に見えるのではないでしょうか?(もちろん上パートのオクターブ下げ記譜のこともありますが)

 移調記譜に精通する努力は、私には新築待ちの仮住まいにオーダー家具を入れるようなことに思えてなりません。

 

私は自分のパートしか見ないので関係ない

 とおっしゃる方もおられるかとは思います。専用の楽譜も出版社が用意してくれています。でもだからこそ私は強調したいのですが「合奏」を思う存分に楽しみたければ、「総譜」を読んで曲の構造を理解することは不可欠です。(歴史上では総譜の使用は比較的後代になります。)この辺りはややこしくなりますのですっ飛ばしますが、練習中でも「譜例2」では「3小節目の最初の音はS が「ド」でA も「ソ」だから同じ音ですね。」という意味不明の会話になりかねません。クラリネットやサックスに馴染んだ方から見ると移調記譜はごく当たり前のことかもしれませんが、それらは主に同属のアンサンブルよりはソロ系の楽器として発展し、しかも音域が広く実音記譜では五線の上下へのはみ出しが多すぎて、読みにくいからと考えます。

 

合奏のハモリを習得するには「実音記譜」で

 楽器メーカーや出版社などは「アルトの運指を覚え直すのはなあ‥」という方に敬遠されたくないので今後も「移調記譜」からはなかなか離れられないかと思います。しかしオカリナを独奏だけではなく合奏でも楽しみたい(サプライヤ目線では市場を発展させたい)と思うならば、入口は「移調記譜」であったとしても「実音記譜」への移行は不可欠だろうと思います。親戚のような関係の「リコーダー」の世界はF 管のアルトリコーダーが主楽器であった経緯も手伝って早くから「実音記譜」になっています。そしてアンサンブルの形で楽しんでおられる方たちが大勢おられます。オカリナの世界もぜひ実音記譜が当たり前になっていってほしいと思います。

 

アルトの運指を全く新しく覚えるのでもありません。

 指の動きはC 管もF 管も変わりなく同じです。C 管で覚えた運指法はそのままF 管に使えます。ただし、同じ運指でも「出る音」が異なるということです。経験的には最初敬遠された方も実際にやってみると比較的に短期間(数ヶ月)で馴染まれるようです。そのあと得るものの大きさを考えると価値あるチャレンジと思います。

 

C 管運指からF 管運指への移行には

1)アルトの「ド」を徹底して覚えると良いと思います。口で「ドレミ」と歌ってそのあとアルトで「ドレミ」と演奏する。これを繰り返します。

2)ソプラノと両方用意してソプラノで「ドシラソ」と演奏して続けて(アルトに持ち替えて)「ファミレド」と演奏する。次はこれの逆を。アルトで「ドレミファ」次にソプラノで「ソラシド」これを繰り返します。

3)我田引水になりますが、「地球は笑顔」を練習されるとアルトの「実音」「移調」が2段に併記されていますので、両者を見比べながら「移調」で吹いている音が実際はこの音、という風に少しづつ全体像を理解されることも可能です。ハイブリッド車みたいなもんですね。

 

実音記譜の合奏楽譜が少ない

 確かに今はまだ少ないですね。でも「実音記譜」の良さが広まっていくと必ずや増えてくるものと考えています。

 

だいぶ長くなりました。この記事はここまでです。

 


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